午後、美代は洗面台の鏡の前で、いつもの容器へ手を伸ばします。指先に触れたのは、小さな試供品。その後ろにも、旅行でもらったもの、以前試そうと思ったものが重なっています。

どれも小さいので、一つ置くたびに困ることはありませんでした。けれど毎朝、使う物を探す手は少しずつ遠回りになっていました。

「まだ使えるのに、使う前から手放すのも違う気がするな」

生成りの木箱が、鏡の端に映ります。こよりは試供品を選ばず、美代の手の中にある一つを見ています。

美代

残しておけば、いつか使うと思っていたの。でも、その『いつか』が来ないね

こより

捨てる日ではなくて、使う日を決めてみようか。肌に合うかどうか、何に使うのか迷うものは、表示を確かめるところまでで止めても大丈夫だよ

美代は、次の休日に使ってみたいものを一つ選びます。旅行に持っていくものも、一つ。何に使うのか分からないものや、状態を確かめられないものは、毎日使う物の間に戻さず、別にしておきます。

小箱に入ったのは、いつどこで使うか言えるものだけです。たくさん詰めるための箱ではありません。予定の日までに使わなければ、もう一度持つ理由を考えるための箱です。

小箱は、小さなカレンダーの一枠のようになりました。次に見る日が分かれば、「いつか」が一つの場面に変わります。ただし、日を決めても、その製品を安全に使える保証にはなりません。 製品名や表示が読めない、開封した時期や保管状態が分からない、容器に変化があるものは肌や目で試さず、メーカーの案内を確認するところで止めます。

洗面台の手前には、毎日使うものだけが残りました。朝の動作が一つ減って、白い天板が少し見えています。

「小さいから残すんじゃなくて、使う日があるから残すのね」

こよりは安心したように目を細めました。美代は小箱を製品表示に合う安全な棚へ置き、次の休日に表示をもう一度確かめる一つだけを覚えておくことにしました。分からない物を使わないまま保留できたことも、今日の小さな一手でした。

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